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マッキンゼー流

ブレーンストーミング術

(ブレークスルーを生み出す)

DHBRの記事を素材にした「示唆・学び」の共創・創発の場

ブレークスルーを生み出すマッキンゼー流ブレーンストーミング術 Breakthrough Thinking from Inside the Box

元マッキンゼー・アンド・カンパニー ディレクター

ケビン P. コイン Kevin P. Coyne

(現在は、アトランタにある企業経営者向けカウンセリング会社、ケビン・コイン・パートナーズの創設者。)

マッキンゼー・アンド・カンパニー シニア戦略エキスパート

パトリシア・ゴーマン・クリフォード Patricia Gorman Clifford

(マッキンゼー・アンド・カンパニーのスタムフォード支社のシニア戦略エキスパート。

スタムフォードにあるコネチカット大学スクール・オブ・ビジネスの助教授でもある。)

マッキンゼー・アンド・カンパニー シニア・コンサルタント

ルネ・ダイ Renee Dye

(マッキンゼー・アンド・カンパニーのアトランタ支社のシニア・コンサルタント。

戦略実践部門を担当する。)

一般的なブレーンストーミングで斬新なアイデアが

生まれてくることがほとんどないのはなぜか。

それは、常識にとらわれず考えようと進行役がはっぱをかけたり

利用するデータが陳腐なものだったり、押しの強い人が場を支配したり

議論のルールや段取りがあいまいだったりするからである。

マッキンゼー・アンド・カンパニーが開発したアプローチは、

心理学者のミハイ・チクセントミハイフロー理論に基づき、

思考の範囲をある程度制約するような質問を投げかけることで、

人間が本来持っている、あらゆる可能性を巧みに模索し、

よいアイデアを生み出す能力を引き出す。

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【目次】

1. 制約があるからこそ創造性は高まる

2. ブレーンストーミングが効果的でない理由

3. 適切な質問を投げかける

4. プロセスのオーケストレーションを改善する

(1)アイデアの許容範囲を確定し、それに応じて質問を選択・修正する

(2)独自の洞察を生み出せる参加者を選ぶ

(3)参加者全員を本気にさせる

(4)全員が議論に参加するようにミーティングを設計する

(5)あらかじめ質問を絞り込んだうえで議論する

(6)一回のブレーンストーミングに終わらせない

(7)すぐさま本格的に検討すべきアイデアを絞り込む

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1. 制約があるからこそ創造性は高まる

「20分以内に新規事業のアイデアを出してほしい」と言われて、あなたならば、どうするだろうか。

所与の課題があまりに広範で漠然としているため、どだい無理だと考えてしまうかもしれない。

我々は、このように具体的とはいえない課題に直面した時、最初から努力しようとせずにギブァッブしてしまう人たちを数多く目撃してきた

では、質問の内容を絞り込んだらどうだろう。

「〈ローラーブレード〉、〈ハーゲン・ダッツ〉アイスクリーム、映画『スパイダーマン』に共通するものは何か」

その答えは、いずれも事業コンセプトが同じであることだ。

この場合、子どもが大好きなものを大人向けの高級なものにつくり替えているという点で

ある。

これと同じ事業コンセプトが、高級ゼリー・ビーンズやメジャー・リーグのファンタジー・キャンプ(注1)、200ドルのスニーカー、企業が主催するパーティ用の高さ6メートル砂の城、ペイント・ボール(注2)、宇宙旅行、ウォルト・ディズニーのコレクターズ・アイテムなど、25以上の新しい製品カテゴリーにも当てはまる。

ここまで来れば、だれでも自分が子どもの頃に夢中だったものを、大人向けの高額商品にあつらえ直すにはどうすればいいか考えることができるに違いない。

我々は実際、経営者向けのワークショップで、この手の頭の体操をウオーミング・アップとして実施しているが、毎回、多くの参加者から興味深いアイデアが提起される。

では、我々の方法がなぜ効果的なのか、ちょっと考えてみたい。

画期的なアイデアを欲している時、「箱の外側」、つまり既存の枠に縛られることなく考えろとも、また「箱の内側」、つまり既存の枠のなかで考えろとも言われない。

我々は、「新しい箱」を用意し、そのなかで物事を考えるように指導しているのだ。

管理職や専門職には、箱の内側で名案を考える能力に優れた人が多い。

彼ら彼女らは常に制約を受けているため、無意識のうちに、限られた範囲内で、代替を探したり、またあれこれ組み合わせたり、並べ換えたりしている。

我々の経験から申し上げれば、一定のルールに基づいて思考範囲をある程度限定すると、人はあらゆる可能性を賢く模索し、名案を次々に考え出し、索晴らしい発想に至る。

しかるべき制約を設けることは、よい質問を投げかけることでもある。

つまり、人々の思考を制限している既存の箱とは異なる、投に立つ箱を新たにつくり出すような質問を発することにほかならない。

ブレーンストーミングにおけるこのアプローチは、筆者らが10年前に、マッキンゼー・アンド・カンパニーにおいて戦略プラクティス・プロジェクトの一環として、具体的にどのように質問するか、これらの質問に回答するプロセスをどのように調和させるかも含め、コンサルタントのチームを指導した際に開発したものだ。

以来、このアプローチを150以上のクライアントに応用し、大規模な製品イノベーションから、業界再編、単純なプロセス改善に至るまで、あらゆる分野で成功を収めている。

ある消費財メーカーがこれを利用して開発した要冷蔵飲料は、発売して半年以内に20%の市場シェアを獲得した。

また某印刷メディアは、ヒスパニック系市場のシェアを3倍に伸ばした。

プラスチック・パイプのあるメーカーは、目の前のチャンスを特定し、75%のコスト削減を実現した。

また、ある地方銀行は、業務プロセスを再構築し、試験運用に参加した支店の業務効率を2倍以上に向上させた。

クリエイティビティが要求される業種でも、我々のアプローチは成果を収めている。

あるメジャー誌を手がける編集部では、記事の切り目がマンネリ化していたが、このアプローチを採用して以来、毎号、斬新な誌面づくりができるようになった。

以上のような効果が実証されたことで、我々はこのアプローチの公開に踏み切った。

では、従来のブレーンストーミングのアプローチの何か間違っていたのか、検討してみよう。

2. ブレーンストーミングが効果的でない理由

具体的なアイデアを次から次へと引き出せずにいるマネジャーは多い。

それは、ありきたりな二つのテクニックを採用しているためである。

まず一つは、自然体で、常識にとらわれず考えてみるよう、部下たちにはっぱをかけることである。

もう一つは、最新のデータ分析ツールを使っていたとしても、その中身は既存の市場デー

タや財務データ、または調査会社に依頼したデータといった、ありきたりの情報であることだ。

前者について言えば、議論のルールや段取りがはっきりしない抽象的なブレーンストーミングが得意な人など、まずいない。

たとえば、進行役のいる一般的なブレーンストーミングで、ある製品の改善について話し合ったとしよう。

既成の枠を超えて考えるとすれば、製品の大型化や小型化、軽量化や重量化のほか、見た目を可愛らしくしたり、ごつい感じにしたりといったスタイリングの変更などが考えられる。

そのほか、価格を変更したり、製品を要素に分解したり、他の製品と組み合わせるといった方法もあるだろう。

さらには、機能や耐久性、使いやすさ、他の製品との相性を変えることも考えられる。

入手しやすい、値頃感がある、壊れても修理可能といったこともありうる。

では、これらのうちのどれに取り組むべきかを判断するには、どうすればよいだろうか。

進行役はたいてい、「間違ったアイデアなど、ありません」と言うが、かえって混乱を招くだけである。

何らかの目安がなければ、最初に決めた方向に従って議論を深めるべきか、それとも1から方向を考え直すべきか、その判断は難しい。

不確実性にうまく対処できず、思考停止に陥ってしまう。

後者ついても、新しい手法でデータ分析した場合でも、それほどの成果は期待できない。

その理由はいくつかある。

どのようなデータベースも、その中身は既存の洞察で構成されており、まだ知られていない洞察ではない。

地域別に売上データがまとめられることが多いのは、地域ごとの比較が重要であると、すでにだれかが知っているからだ。

また、普通に入手できるデータを加工し直した程度で得られた洞察は、いずれ他社によって解明されてしまうことだろう。

なぜなら、みんなが同じ手法と同じデータを使っている可能性が高いからだ。

市場調査には、もう一つの弊害がある。

まったく新しいアイデアを創造する取り組みを始めると、必ずだれかが次のようなことを言い出す。

「顧客の意見を聞いてみよう。顧客はばかじゃないからね」

たしかに、顧客はばかではないし、あなたの会社の製品が他社製品より劣っている点は見分けられる。

しかし、いままで見たことも、想像したこともないような製品を白分たちが必要としたり、欲したりするのかを判断できる顧客など、ほとんどいない。

有名な話だが、かつてコンピュータの将来需要を5台と予測した市場調査結果がある。

当時の人たちは、3枚以上のコピーを取る必要がなく、カーボン紙で事足りていたため、コピー機も不要だった。

携帯電話の需要はごく限られたもので、ソニーの〈ウオークマン〉も失敗すると予想された。

アイデアが完成し、具体的なかたちで顧客に提示すれば、そのアイデアヘの反応を予測するうえで、市場調査が絶大な効果を発揮する場合もある。

しかし、潜在的ニーズを予測できる可能性はほとんどない。

我々のアプローチは、制約のない空論と定量データ分析という両極の中間を採用するものといえる。

新しい箱を創造して、その内側で思考できる質問を投げかければ、スタッフたちが広大な宇宙で方向を見失うのを防げるだけでなく、選択肢を比較検討し、最適なものを選び、自分たちが前に進めているのかどうかを知るうえでの基礎となろう。

ただし、適切な質問を投げかけることができたとしても、まだ半分が終わったにすぎない。

プレーンストーミングをどのように計画・実施するのかという問題が残っている。

10人以上のグループで議論することに、ほとんどの人が嫌悪感を抱いている。

アイデアの創造を妨げるこのような障害を排除するためにも、概念化(アイディエーション)のプロセスを見直す必要がある。

以下では、効果的なブレーンストーミングを短時間で構成するプロセスについて説明する。

では、どうすれば適切な質問が生まれるのかについて、詳しく検討してみたい。

3. 適切な質問を投げかける

10年前に調査を実施した際、マッキンゼーのチームは、当時シカゴ大学教授だった心理学者のミハイ・チクセントミハイ(注3)の研究に出会った。

ノーベル賞受賞者など、創造性あふれる人たちはどのようにブレークスルーを生み出すのかに関する、彼のフロー理論に触れたことで、一つの興味深い洞察が生まれた。

すなわち、適切な質問を与えれば、アイデアが流れるように出てくる---。

我々はこれに触発されて、近年に大きな成功を収めた企業がいかに現在のポジションを確立したのか、その検証を試みた。

まず、これらの企業を二つに分類した。

一つは、すでに大企業に成長しており、比較的短期間で一産業を形成した企業で、もう一つは、小規模の新興企業からスタートし、6年以内に売上高10億ドル超の企業へ成長した企業である。

どちらも、それぞれの市場で製品やサービスの定義を変えてしまうブレークスルーを起こし、これが成功の礎になっている。

調査の結果、数多くのイノベーションは、何らかの質問への回答として生まれていることが判明した。

本当にそのような質問が投げかけられたかどうかは重要ではない。

むしろ、そのような質問によって、CNNやグーグル、USAトゥデイ、イーベイ、アマゾンが発見・開拓した稀有なチャンスを特定できるかどうかが重要なのだ。

さらに我々は、さまざまな業種から選んだ50のブレークスルー・アイデアに焦点を較ってリバース・エンジニアリング(結果から要因に遡及して精査する分析)し、聡明なマネジャーがひらめきを得るきっかけとなった質問がどのようなものであったか、その解明を試みた。

当然、質問のなかには、その業界固有のものも含まれている。

ただし、そのような質問のなかには、図表1「製品開発をめぐる21の質問」で示したとおり、普遍的なものが多いことが判明した。

どのような事業分野でも、優れた洞察を引き出せる質問の1つとして、

「当社の製品を購入または使用するに当たって、消費者が知らずしらずのうちに強いられている問題のなかで、最大の障害となっているものは何か」というものが挙げられる。

そのような問題を排除した新規事業の例として、ジフィ・ルーブ・インターナショナル(オンデマンドによる迅速な自動車のオイル交換サービス)やカーマックス・ビジネス・サービシズ(快適な環境で、納得できる価格で買い取り保証する中古車ディーラー)、買ってからすぐに使えるプリペイドの携帯電話(初期設定に20分を要したり、知らないうちに電話代がかさんだりするリスクを回避できる)などのほか、一回分を個別包装した薪(余分な薪を保管する場所のない人向け)のようなローテクも挙げられる。

世界にはいまなお、そのようなチャンスがあふれている。

ここで、ガソリン販売業を例に考えてみよう。

ガソリン・スタンドの目に見えない最大の問題は何だろう。

それは、そこに足を運ばなければならないことである。

自動車が運転に使われる時間は一台当たり年間平均500時間程度である。

残りの95%の時間は、大型駐車場など、何らかの場所に置かれている。

小型の給油車がそのような駐車場へ出向き、「給油してください」と書かれた旗のある会員の自動車に給油するというアイデアはどうだろう。

はたして、この方法は有効だろうか。

その際、克服しなければならない経営上の課題があるのは当然である。

ただし、その答えを知るには、寒い雨の日にセルフ・サービスのガソリン・スタンドで給油するドライバーたちに、これが名案かどうかを尋ねてみれば十分だろう。

もちろん、同じ質問でも、別のアイデアが生まれてくる可能性もある。

銀行の各部門が、それぞれ「当行の商品に関する諸手続きが最も適していないのは、どのような利用者か」という質問について考えた場合はどうだろう。

融資部門の場合、借り手と貸し手の双方にとって事務処理が面倒で、しかも利幅が少ない中小企業向け融資に行き着くことだろう。

この場合、銀行が提供しうる解決策の1つとして、法人向けの質屋を開設するというアイデアはどうだろう。

消費者向けの質屋と同じように、企業が資産を預けて融資を確保し、必要な書類の作成の手間を極力省くことができる。

クレジット・カード部門であれば、外部の信用調査機関が所有する信用履歴データベースで信用度の低い潜在顧客について検討することになるかもしれない。

また、母国での信用履歴は良好ながら、アメリカでの信用履歴がない移住者へのクレジット・カードのマーケティングを目的としたビジネス・プランに発展する可能性もある。

同様に、「特定の理由で当社の製品を使用しない人がいるとすれば、それはどのような人か」と問いかけたことで、聴覚や触覚、嗅覚を利用して情報を伝達する視覚障害者向けの美術館がすでにいくつか創設されている。

きわめて効果的な質問であれば、すでに発見・開拓された可能性とはまったく異なる可能性にたどり着き、見過ごされていた貴重な改善機会が示されるものである。

自分が本当によいと思える新しいビジネス・アイデアに出会った時は、必ず「どのような質問がきっかけで、自分は最初にこの機会を見出すことができたのか」と自問自答し、独自のリストを作成するとよい。

そして、自分が見つけた素晴らしいアイデアやイノベーションをリバース・エンジニアリングしてみることだ。

前述のアイスクリーム、〈ローラーブレード〉、『スパイダーマン』の共通点は何かなど、ウオームアップ・エクササイズで用いている質問は、このリバース・エンジニアリングの産物である。

このアプローチを使って、我々は250を超える質問を考え出し、一つひとつ検証している。

よりシステ了アィックに質問を開発したいのであれば、高次元の質問からスタートし、それをさらに厳密な定義の質問へと連続的に分解する「ロジック・ツリー」を利用するとよいだろう。

例外的な状況でも、このアプローチの有効性は証明されている。

たとえば、あなたが流行のポピュラー音楽を取り上げる一般大衆向け音楽誌の編集者であると仮定しよう。

その雑誌の記事は、新人のバンドや歌手、時にベテラン・ミュージシャンのインタビューやプロフィールを中心に構成される。

ところが、その編集方針はいささか陳腐化しつつある。

そこで、図表2「ロジック・ツリーで考える」のように利用すれば、同じトレンドでも記事の切り口の幅を大きく広げ、読者を飽きさせない誌面づくりを追求するうえで役に立つだろう。

我々の調査では、このロジック・ツリーを3~6段階掘り下げるのが、抽象化のレベルとしては適切であることがわかっている。

最初のレベルで止まってしまうと、質問の範囲が広くなりすぎてしまう。

一方、あまり先へ進みすぎると、質問の内容が具体的になりすぎて、有意義な回答を出せなくなってしまう。

このロジック・ツリーは、新しいアイデアの創造を支援してくれるだけでなく、型にはまったアイデア、コンセプトが似通ったアイデアを見分けるうえでも役に立つ。

すべてのアイデアがいくつかの同じ質問から導き出されたものであれば、さらに枝を広げることで、大きな効果を得られるだろう。

【図表2: ロジック・ツリーで考える】

ロジック・ツリーは、ブレーンストーミングを活性化させる質問を体系的に考えるツールの一つである。

ロジック・ツリーでは、高次元の質問からスタートし、だんだんと具体的な質問へと分解していく。

質問のレベルを5ないしは6段階掘り下げるのが最も効果的である場合が多い。

ここでは、記事の切り口を見直そうとしている音楽誌の例を紹介する。

ロジック・ツリーの最初のほうの枝はごく一般的な質問で、編集者が毎日考えているような内容と思われる。

しかし、枝分かれするに従い(該当する質問を強調表示)、質問がより具体的で独自性の高いものになっているのがわかる。

たとえば、「読者にトレンドを詳しく理解してもらうには、どのようにすればよいか」という質問から、3種類の可能性が枝分かれし、これらが、まだ抽象的とはいえ、作業を進められる程度に焦点が絞られた質問へとつながっている。

それ以外の枝をたどってみても、興味深い可能性を見つけられる。

4. プロセスのオーケストレーションを改善する

実際、ほとんどのブレーンストーミングが、人間が思考し、共同作業する際の基本をなおざりにしている。

たとえば、次のようなよくある状況について考えてみてほしい。

およそ20人が会議室に集合している。

その大半が、社内政治的な理由で選ばれている。

進行役を務めるのは上司で、部下たちはばかだと思われるのが嫌で、発言するのを躊躇している。

また、ビジネスをよく知らない、知る必要もないと考えている「クリエイティビティ・モデレーター」が進行役を務めている場合もあるだろう。

押しの強い三人が持論を展開して会議を支配する一方、ほかの人たちは黙って座っている。

「常識にとらわれずに考えてみましょう」と言われれば、「青にしよう」「ドイツで売ったら、どうだろう」「高級バージョンを出そう」「問題は営業にある」など、実にさまざまな意見が飛び出してくる。

そして[悪いアイデアなどない」というわけで、「ガソリンの代わりになる格安の丸薬を発明してはどうか」など、非常識な夢物語に時間とエネルギーが浪費されてしまう。

名案は、強制したところで生まれてこない。

このことはだれでも知っている。

したがって、参加者たちは「成果がなくても、しかたがない」「ワークショップの結果など、放っておいてもよい」と考えてしまう。

では、ブレーンストーミングのプロセスを見直し、グループ作業にふさわしいやり方について考えてみたい。

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(1)アイデアの許容範囲を確定し、それに応じて質問を選択・修正する

(2)独自の洞察を生み出せる参加者を選ぶ

(3)参加者全員を本気にさせる

(4)全員が議論に参加するようにミーティングを設計する

(5)あらかじめ質問を絞り込んだうえで議論する

(6)一回のブレーンストーミングに終わらせない

(7)すぐさま本格的に検討すべきアイデアを絞り込む

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(1)アイデアの許容範囲を確定し、それに応じて質問を選択・修正する

ブレーンストーミングの後、だれかが「私もそのことを考えたのですが、求められているアイデアではないように思ったものですから、申し上げませんでした」と言っているのを見かけたことがあるだろう。

また、予算や人員、時間の制約を考える限り、およそ実行不可能なアイデアが提案されることもよくある。

斬新なアイデアを模索しているにもかかわらず、段階的な改善策が提案されたりすることも多い。

このような事態はもれなく、ミーティングの前に、アイデアの評価基準と範囲をはっきりさせておけば、容易に回避できる。

求めているのは、斬新なアイデアなのか、それとも失敗しない確実なアイデアか。

予算はどれくらいか。

会社は何人くらい用意するつもりなのか。

投資の回収に要する期間はどの程度か。

次に、解決する問題に求められる条件について考えてみる。

そうすれば、異口同音の答えばかり出てくるような質問を回避できる。

たとえば、構内作業用の大型クレーンのように、どの顧客でも用途が変わらないものであれば、「最近の顧客のなかで、当社の製品が最も適していない顧客はだれか」、あるいは「当社の製品に最も向いていない用途は、具体的には何か」と問いかけたところで、無意味である。

この場合、どちらの質問も同じ答えしか出てこない。

ところが、自動車など、用途が顧客ごとに異なり、また顧客もさまざまである場合、これら二つの質問は素晴らしい洞察を導く可能性がある。

どのような質問をすべきかを考える際、できる限りこれまでのアプローチとは異なる角度からアプローチする質問を選択する。

したがって一連の質問は、言わばポートフォリオ、つまり個々の質問はそれぞれ異なる切り口になっていると考えるべきである。

また、各質問を組み合わせて、具体的な目標や条件に最もふさわしい質問を考え出すこともできる。

斬新なアイデアを創造させる質問と、低リスクで妥当なアイデアを引き出す質問とでは、おのずと表現は異なる。

たとえば80年代後半に、コンピュータ販売会社のCEOが「どうすればコストを削減できるか」と質問したならよ、「出荷をまとめる」「店舗スタッフの数を減らす」といった段階的なアイデアが出されたことだろう。

しかし、もし「コストを50%削減するには、どの要素を排除しなければならないか」「その要素を必要としない顧客はいるか」と質問していれば、店舗販売に代わって通信販売を採用するというアイデアが生まれ、その先駆けとなっていれば、マイケル・デルを出し抜けたかもしれない。

ポートフォリオを構成する質問の数は、ブレーンストーミングの参加者数や与えられた時間によって異なる。

その理由は後述するが、参加者が4人ないしは5人ならば、30分当たり1つの質問が必要となる。

ただし、これぞという質開か思いつかない場合、最善と考えられる質問を一つか二つ、複数のグループに投げかけてみてもよいだろう。

最後に、それぞれの質問を、自問自答してみることだ。

いちばんアイデアが浮かんでくるのは、どの質問だろうか。

(2)独自の洞察を生み出せる参加者を選ぶ

あまり議論に貢献しない人でも、社内の人間関係上、参加してもらわなければならない場合が少なくない。

その一方、貢献できそうな人はほかにたくさんいる。

たとえば、[まったく想定していなかった方法で製品を使用しているのは、どのような人か」あるいは「当社の製品を驚くほど大量に使用しているのは、どのような人か」といったテーマを考えているならば、現場に詳しい人に参加してもらう必要がある。

そのような人は、自分の部下ではなく、意外な場所にいる可能性が高い。

何年も前の話だが、高齢者向け食品に関して、ある営業マネジャーはあっと驚くような可能性を発見した。

フロリダ地区のベビー・フードの売上げが、その地区の人口統計から算出された予測値を大幅に上回っていたのである。

その理由を探っていくと、その地区の営業担当者が意外な事実を打ち明けたのだ。

介護施設の高齢者たちがベビー・フードを食べていたということだった。

マウンテン・バイクもまた、自転車を乗り潰し、頻繁に買い換えていた顧客から学習した産物である。

(3)参加者全員を本気にさせる

通常のブレーンストーミングでは、参加者のほとんどが、このミーティングに無関心であるという事実を受け入れなければならない。

したがってマネジャーは、積極的に場を盛り上げるべきである。

我々は以前、年商1000億ドル企業の経営陣6人を集め、自分のチームが最高のアイデアを出すことに、それぞれ20ドル賭けてもらうことで、彼らの本気を引き出すことに成功した。

このようにちょっとした工夫で、大企業の経営者もその気になるのだから、普通のブレーンストーミングの場合、どのような手が使えるのか、考えてみてほしい。

勝ったチームは、たとえば最終製品のロゴの色を選べるとか、テレビCMにエキストラで出演できるというのはどうだろう。

インセンティブが何であれ、その目的は言うまでもなかろう。

参加者全員の能力とセッションの効果を100%引き出すことである。

(4)全員が議論に参加するようにミーティングを設計する

参加者が10人を超えるミーティングでは、ほぼ例外なく、ずっと押し黙っている、あるいは発言は極力控えるという社会規範が見られる。

しかしたいてい、押しの強い何人かがこれを無視し、残りの人たちは彼ら彼女らの好き勝手を見守る。

では参加者20人のセッションを4人ずつのグループに分けると、どうなるか。

4人のグループでは、全員参加がその場での社会規範となり、非協力的な態度は許されない。

また、グループが1つではなく5つあれば、一言居士が1人から5人に増える。

さらに、議論を支配しなければ気の済まない人たちを一つのグループにまとめる。

すると、他のグループにいる16人が発言し始める。

(5)あらかじめ質問を絞り込んだうえで議論する

ミーティングの冒頭で、いま求められているのは、斬新なアイデアなのか、それとも段階的な改善策なのか、予算はどれくらいなのかなど、あらかじめわかっていることをはっきり説明しておく。

「かえって創造性に足かせをはめてしまうのではないか」という心配は無用である。

創造性を引き出すのは、まさにそのような制約、すなわち「新しい箱」なのだ。

参加者を少人数のグループに分けたら、かなり絞り込んだ課題を一つ与える。

一つの質問につき20~30分ほど議論した後、グループごとにいちばんのアイデアを全員の前で報告してもらう。

このステップは通常、次のように進行する。

各セッションの最初の5分間は、通常のブレーンストーミングと同じ要領とはいえ、参加者たちは次第によりよいアイデアを出すようになり、バリエーションも広がっていく。

このような相互作用の結果、複雑で多層的な概念が生まれ、本当のキラー・アイデアヘと発展する可能性も高い。

(6)一回のブレーンストーミングに終わらせない

概念化のワークショップを1回で終わらせてしまうマネジャーが多いことに、よく驚かされる。

それでは、みんなで知恵を出し合い、共同作業をすることの重要性を軽視しているにほかならない。

ワークショップの内容がいかに効果的なものでも、このような場では持てる能力を十分に発揮できない人もいるだろう。

また、質問されて、「わかりません。ですが、このワークショップが終わる5時までとはいきませんが、もっと時間があれば思いつくかもしれません」と答えたとしても、これはこれでしごくまっとうな意見である。

それに、時間の経過と共に、どんどん改善されていくアイデアもある。

以上の理由から、ブレーンストーミングは多面的なプロセスでなければならず、したがって1回に限定してはならない。

たとえば、だれかにワークショップの前にデータ収集を依頼したり、1ないしは2回の反省会を設定したり、またセッション後に各参加者から追加情報を収集する手段を用意すべきかもしれない。

(7)すぐさま本格的に検討すべきアイデアを絞り込む

ブレーンストーミングの参加者にとって、自分の努力が何らかのかたちで実を結ぶのかどうか、確信を持てないまま議論を終えなければならないということほど、がっかりさせられることはない。

したがって、アイデアの取捨選択は、けっして後回しにせず、その場で決着をつけることが肝心だ。

それに、概念化のセッションでは、あれこれ精査する必要はない。

時間を置いてから取捨選択すると、まず間違いなく、せっかくの努力も水の泡となる。

従来のブレーンストーミングとは大きく異なり、我々のアプローチならば、建設的なアイデアを数多く創造できるはずである。

たとえば参加者20人のワークショップの場合、1時間で平均約20のアイデアが生まれる。

2日間のワークショップであれば、8時間で150以上のアイデアが出てこよう。

多くの場合、その4分の1が使い物にならないのも事実だが、残りのアイデアの約半分は慎重に検討する価値がある。

とはいえそれでも、約50のアイデアがお蔵入りとなる。

アイデアが選ばれなかった人を気づかって、勝者を選ぶのをためらうマネジャーが少なくない。

しかし、それは間違いである。

ほとんどの人は、自分の目の前で取捨選択が行われるほうがよいと考えている。

そうすれば、他人の思考プロセスから何かを学び取り、次の機会にはこれまで以上のアイデアを創造できるからだ。

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我々の「シンク・インサイド・ザ・ボックス」というアプローチを導入する際には、人間には次のような行動原理があることに留意されたい。

すなわち、人は変化に慎重である、というものだ。

これまでブレーンストーミングというと、口先だけのアイデアマンたちの独壇場であり、冷静かつ思慮深い人たちに嫌悪を抱かせるものだった。

これらの人たちを表舞台に登場させ、心を開かせるには、相当の時間と労力を要することだろう。

最初は、心の準備ができていなかったり、宿題をやってこなかったりすることもあるだろう。

要するに、そのような緊張感を持ってブレーンストーミングに臨んだ経験がないのである。

しかし最終的には、ほとんどの人が変化を経験し、それを受け入れられるようになる。

適切な制約のある箱を用意すれば、そのような人たちから、名案、妙案があふれ出てくることだろう。

これらのアイデアを価値として現実化することこそ、マネジャーの仕事である。

(HBR2007年12月号より)

【注】

(注1)春季キャンプの時期にキャンプ地で行われる、OB選手が主体となって成人ファンを対象にプレーの指導をするファン・イベント。

(注2)プロテクターやゴーグルを着用したメンバーが二手に分かれ、フィールド内でインクの入ったペイント弾を撃ち合いながら、相手チームの旗を奪取することで勝敗を競うスポーツ。

(注3)ハンガリー生まれの心理学者。現在、クレアモント大学教授。

Beyond Boredom and Anxiety: Experiencing Flow in Work and Play, Jossey-Bass, 1975.

(邦訳『楽しみの社会学』思索社、1979年。1991年に『楽しむということ』に改題、2001年、新思索社より改題新装版『楽しみの社会学』が発行)で「フロー」の概念を提唱した。フローとは、特に自己目的的な活動に没頭している時、何事も苦にならない精神状態のこと。

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