製造業がサービスで儲ける秘訣

(EU企業のスタディから学ぶ)


DHBRの記事を素材にした「示唆・学び」の共創・創発の場

EU企業のスタディから学ぶ

製造業がサービスで儲ける秘訣

How to Sell Services More Profitability

ケルン大学教授 ベルナー・ライナルツ Werner Reinartz

ドイツのケルン大学教授。ならびにフランスのフォンテンブローにあるINSEAD准教授。

専門はマーケティング。

HECスクール・オブ・マネジメント准教授 ウォルフガング・ウラガ Wolfgang Ulaga

フランスのジュイアンジョザスにあるHECスクール・オプ・マネジメント准教授。

専門はマーケティング。

 

EUの製造業20社のサービス事業について調べたところ、

サービスの利益が製品よりも大きい企業と

採算すら危うい企業に二極分化された。

この差を生み出している原因は、

サービス事業を企画・開発する方法の違いにあった。

フランスのエア・リキード、シュナイダー・エレクトリック、

フェンウィック・リンデ、スウェーデンのSKFなど、

試行錯誤しながらも、ついにはサービス事業をみごと開花させ、

その高い利益率を享受している企業を紹介しながら、

サービスの事業化の4ステップを解説する。

 

1. 製造業のサービス事業は想像以上に難しい

 

「製品のコモディティ化か始まったら、サービスによって顧客に付加価値を提供し、競争優位を確立する」

 

 メーカーはこのような考え方に傾きがちである。

この戦略が奏功をすれば、目覚ましい利益が上がり、製品そのものよりもサービスのほうが大きな利益をもたらすという。

 

 ところが、サクセス・ストーリーが一つあれば、その陰には他山の石とすべき事例が少なくとも五つはある。

メーカーがサービス事業から利益を上げるのは至難の業なのだ。

一流といわれるメーカーですら、利益どころか、かえってつまずきかねない。

 

 我々が調査した某テクノロジー企業を例に挙げたい。

この企業は、医療機器、IT、自動車用機器、輸送システムなどの分野で、グローバルに事業展開している。

 

 年間50億ユーロのIT事業部は、製品の設置や顧客への研修サービスなど、数は少ないながらも製品に関連したサービスを提供していた。

 

 そして2003年、コモディティ化の影響で、製品の純利益率が34%と低迷するなか、サービスの利益率はその2倍にも上ることに気づいた。

そこで同事業部は、大口顧客向けのサービスを重点的に拡充することを決めた。

上層部は「カスタマイズ・サービスの利益率は、遠からず15%に達するだろう」と皮算用した。

 

 ところが、この予測はみごとに外れ、同事業部の利益率は2005年にはマイナス10%超に落ち込んだ。

この新規事業はとんでもないお荷物となり、2005年だけで26000万ユーロもの損失をもたらした。

 

 この赤字の原因はいくつもある。

第一に、現場から離れた事務方が複雑なサービスを企画・開発するのは予想以上に難しかった。

顧客の要望に応えるにはかなりのカスタマイゼーションが必要とされるため、一つの案件で経験や知識を積んでも、他の案件にはほとんど生かせなかった。

 

 第二に、同社の営業部門は従来、サービスはついでに勧めるものと考えてきた。

しかも、顧客企業の窓口担当者には、数百万ユーロものソリューション契約を結ぶ権限はなかった。

 

 第三に、サービスを提供するには社外からさまざまな情報を収集しなければならず、思いのほか時間がかかったほか、相当規模の経営資源を投じる必要があった。

サービス事業の担当役員は、「期待ばかりが先に立ち、つい勇み足になりました」と、率直に失敗を認めている。

 

 我々はこの3年間、産業財メーカーがサービス事業から利益を生み出す方法を探ってきた。

 

 具体的には、接着剤、自動車用の塗装材やガラス、ベアリング、ケーブルと配線システム、電力、航空機用エレクトロニクス・システム、印刷機、特殊化学製品(スペシャリティ・ケミカル)など、さまざまなメーカー20社を対象に詳細な調査を実施した。

ちなみに、いずれの企業も業界3位以内につけている。

 

 調査に当たっては、意思決定のキー・パーソンにインタビューしたが、彼ら彼女らの多くは取締役と執行役員を兼務していた。

また、さまざまな国や事業部の人たちに話を間くようにも心がけた。

くわえて、ワークショップを何回も開き、法人ビジネスに携わる500人以上のマネジャーと意見交換し、インタビューから得た知見を肉づけした。

 

 調査を進めるに従い、サービスの売上げと利益は、企業ごとにかなりのバラツキがあることが判明した。

一部の企業では、サービスが売上高の半分を占め、その利益率は製品の8倍にも上った。

 

 他方、まったく対照的な一群もあった。

これらの企業は、膨大な努力を傾けてサービスを開発したにもかかわらず、対価を支払ってまで利用しようという顧客が少なかったため、売上げが低迷し、採算すれすれという状況に置かれていた。

 

 前者と後者を比べてみたところ、サービス事業を企画・開発するアプローチに大きな違いがあった。

冒頭で紹介したテクノロジー企業----この企業はその後、みごと再生を果たした----と同じように、サービス事業の育成に失敗する企業は、えてして性急すぎる傾向がある。

 

 逆に、サービス事業をうまく開花させている企業はじっくり構え、自社が以前から提供しているシンプルなサービスを洗い出し、その有償化を図る。

これをテコに、多種多様なサービスヘと発展させようという意欲を社内に醸成する。

続いて、サービス提供プロセスを標準化し、モノづくりに匹敵するほどの高効率を実現する。

また、サービスの多様化に合わせて、営業担当者の能力開発にも努める。

 

 さらに、これまで業務プロセスや組織のことばかりに気を取られていた経営陣が、顧客はどのような課題を抱えているか、その業務プロセスには、新しいサービスのアイデアが潜んでいないか、新サービスを提供するにはどのようなケイパビリティが必要なのかを重視するようになる(図表「法人向けサービスから利益を創造する」を参照)。

 

図表 法人向けサービスから利益を創造する(-->本ページの最後尾にディジタル情報あり)

  サービスを利益につなげるには、各ステップにおいて具体的な目標を掲げ、以下に紹介するような問題に自問自答する必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以下、一連のステップについて詳しく見ていこう。

 

2. STEP 1】既存サービスにあらためて目を向ける

 

 メーカーの大半が、そうとは自覚していないだけで、実はすでにサービスを提供している。

既存サービスを有償化するだけで売上げが増えるにもかかわらず、そのチャンスをみすみす逃しているのだ。

 

 そこで、サービスを拡充するにはまず、既存サービスの価値を見直し、これを顧客に認識してもらうよう、努力しなければならない。

製薬業界の巨人メルクを例に挙げよう。

 

 メルクのフランス法人はかなり以前から、ある製品の客先への配送を無償でしていた。

特殊薬品は少量でも値が張るため、そのための配送や保険のコストは、その請求額からすればごく一部にすぎなかったため、持ち出しとしていた。

 

 この方針に、だれも疑問を抱くことはなかった。

かたや顧客にすれば、これらの代金は請求されていないため、貴重なサービスを受けている事実に気づかずにいた。

 

 ところが、メルクはつい数年前に、この古くからの慣習を見直した。

無作為に選んだ100社を対象に、配送条件を「無償配送」から「工場渡し」へと変更したのである。

ただし、メルクの損益への影響はほとんどなかった。

 

 対象顧客の90%は、条件の変更に気づきもせず、即座に配送料の支払いに応じた。

残り10%の顧客はこの変更に気づいたが、そのなかで、以前の条件に戻してほしいと主張したのは半数にすぎなかった。

 

 申し出のあった顧客については無償配送に戻したが、95社との間では有償化が実現したのだった。

その後、有償化の対象を、原則すべての顧客へと広げた。

各顧客の負担増はごくわずかだったが、この製品分野の収益率は目覚ましく改善した。

 

 サービスを有償化すると、それに関連する資産の価値が、企業と顧客の双方において明確になる。

フランスの産業および医療向けガスの製造販売を手がけるエア・リキードも、サービスの有償化に踏み切った。

同社では、法人顧客に少量のガスを届けるために、これまで膨大な数のガス・シリンダーを取り揃えていた。

 

 顧客にはガスの代金しか請求せず、シリンダー代は自己負担していた。

このため、シリンダーの利用に歯止めがかからず、エア・リキードの貸し出し数はとめどなく膨らんでいった。

 

 そこで、エア・リキードは1990年代半ばから、ガス・シリンダー一本月額57ユーロの利用料を請求することにした。

これを合計すると、年間で数億ユーロに上り、損益の好転に貢献した。

 

 これ以後、顧客もむやみにシリンダーを借りたままにするのを控えた。

こうしてエア・リキードはガス・シリンダーの在庫を減らし、不要になって戻ってきたシリンダーを、別の顧客に回せるようになった。

 

 大企業の場合、サービスを有償もしくは無償のどちらで提供しているのか、その料金体系はどうなっているのかなど、各事業部を対象に比較調査すれば、それだけでドル箱サービスを掘り起こすことができる。

 

 世界的なケーブル製造業者、ネクサンスの場合、ケーブル・ドラムの使用料を顧客に請求するかどうかをめぐり、その対応は国ごとでまちまちだった。

同社は、迅速な配送を保証するために高圧ケーブルの在庫を大量に抱えていたが、全社的にケーブル・ドラムの有償化に乗り出したところ、運転資金が圧縮された。

 

 目先の利く企業は、ビジネス・リーダーたちに、おのおのの事業部門の様子を探り、隠れたサービスを掘り起こす役割を担わせる。

彼ら彼女らは、他部門の成功事例を参考にしながら、先進的なサービス戦略の立案に着手する。

 

 サービスの事業化の責任者を早くから決めておくと、泥縄の対応がなくなる一方、ベスト・プラクティスの発見と全社的な普及が促される。

フランスの電気設備メーカー、シュナイダー・エレクトリックはまさしくこれを実践した。

 

 サービス事業に重点を置くと決めるや否や、戦略的な体制を敷いて、すぐさまサービス事業部を設け、社内のサービスを洗い直し、新サービスを開発するために各部門の協力を促す戦略を立案する仕事を与えた。

なお、この事業部のエグゼクティブ・バイス・プレジデントには、社歴20年の執行役員を任命した。

 

 

3. STEP 2】バック・オフィス業務にモノづくりの発想を取り入れる

 

メーカーは、制御しやすい安定的な生産プロセスに慣れている。

ところが、高付加価値のサービスをカスタマイズして提供するには、とんでもないコストがかかることを思い知る。

しかしこれを克服できなければ、サービス事業の利益率がひどく損なわれる。

 

 あるマネジャーはインタビューのなかで、

「サービス事業で利益を稼ぐには、バック・オフィス業務にモノづくりの発想を取り入れる必要があります。

ゼネラル・エレクトリック(GE)やIBMなどは、業務プロセスの改善に凄まじい執念を燃やしていますよ」と語っていた。

 

ドイツの印刷機械メーカー、ハイデルベルガー・ドルツクマシーネン(ハイデルベルク)は、サービス重視の戦略に転換しようとしたところ、バック・オフィスの混乱に見舞われた。

ハイデルベルクのフランス法人は、印刷機械のメインテナンスに関して、都度払いと包括契約の二つの選択肢を用意している。

 

前者では、顧客から要請があれば、フィールド・サービスを提供し、そのつど人件費と部品代を請求する。

後者の包括契約では、顧客専用のヘルプ・デスクを設けるほか、リモート監視や定期点検を行う。

 

包括契約を結んでいる顧客は、他の顧客よりも頻繁にサービスを求める傾向があり、その頻度は通常の2倍に上り、ハイデルベルクにすれば頭痛の種だった。

 

これらの顧客はコストを気にする必要がないため、何かにつけてフィールド・エンジニアの派遣を求めてきた,

 

エンジニアも気軽に部品交換に応じるほか、たとえば訪問時のスケジュール調整が甘い、必要な器具を忘れて2度手間を踏むといった問題が見られた。

エンジニアの多くは、包括契約の代金によってコストは十分カバーされていると思い込んでいた。

このような状況ゆえ、包括契約の利益率は都度払いのそれを下回っていた。

 

 サービス提供のコストがかさみ、利益率を圧迫する状況を避けるには、次の三つの方法が考えられる。

 

 第一に、共通のプロセスを土台にしながら、さまざまな顧客ニーズに臨機応変に応えられるよう、サービス・プラットフオームを用意するとよい。

ちょうどモノづくりにおいて、標準プラットフオーム上で複数の製品モデルを製造するのと同じ発想である。

 

我々がインタビューしたあるマネジヤーは、こう述べていた。

「当社では6種類の保守サービスを用意しています。

全顧客の80%はこのうちの一つに集中していますが、顧客はそれぞれのニーズに最もふさわしいコースを選べるわけです」

 

 第二に、サービスで利益を稼いでいる企業は、たえずコストに目を光らせ、利益を圧迫している要因は何かを見極めている。

エア・リキードでは、執行役員にサービス標準化を担当させ、具体的な責任を与えている。

 

 この執行役員は、経営トップの後押しと社内タスク・フォースの手助けを得て、各事業部のマネジャーや現場社員たちに、サービスの開発と提供に伴うコストを計画的に抑制しながら、顧客の期待に応える方法を説いた。

 

 たとえば、これまではガスの使用状況を定期的に通知していたが、標準化チームが調べたところ、顧客は必ずしもこの情報を活用していなかった。

必要とする顧客だけに郵送先を絞ったところ、サービスヘの評価が下がること

なくコストの一部を切り詰めることができた。

 

 第三に、新技術をいち早く取り入れ、プロセス・イノベーションを成し遂げるのも、成功企業の特徴である。

スウェーデンのベアリング・メーカーSKFは、インターネット経由で電子モニタリング・ツールを提供し、製品寿命の長期化を図っている。

このツールを使うと、顧客はセキュリティ面に関する心配がなくなり、また振動分析データに基づいてベアリングの異常を察知できる。

 

 このようにかゆいところに手が届いたサービスを実現すれば、フィールド・エンジニアを客先に派遣するまでもなく、最高水準のメインテナンスを提供できる。

 

 

4. STEP 3】営業担当者にサービス営業の心得を教える

 

 サービスを既存製品のおまけ程度に考えているならば、営業部門も若干の研修を受けさえすれば、製品とサービスの両方を扱えるようになるだろう。

ところが、そのレベルのサービスにとどまらず、製品とサービスを組み合わせたソリューションを提供するとなると、従来とは異なる視点からサービス・マネジメント戦略を考え直す必要がある。

 

 複数からなるサービスの場合、いくつかの段階を踏みながら、時間をかけてアプローチする必要があるため、そのプロセスそのものも一筋縄にいくものではなく、また顧客企業の戦略を考慮する、つまり顧客企業の上層部の判断を仰ぐ必要も出てくる。

 

 ハイデルベルクは、この点を認識していなかったために苦戦を強いられた。

同社は20世紀に入ってほどなく、印刷機械の遠隔モニタリング・サービスを開始し、無償ではなく有償で提供した。

機械の不稼働時間を減らすのに寄与するという理由からである。

 

 顧客にすれば、印刷機の不稼働は大きな痛手であり、平均で1時間当たり数百ユーロの損害につながる。

通常、スペア部品が客先に届くまでには丸1日かかるため、不稼働が1回発生すると損害規模は数千ユーロに上る。

 

 ハイデルベルクはサービス料金を、想定される損害額よりもかなり低い水準に設定したが、顧客の反応は鈍かった。

営業担当者やフィールド・エンジニアは、定番のサービス契約を顧客に勧めることには慣れていたが、複雑なソリューションを説明するにはスキル不足だったのである。

 

 また、顧客の調達部門あるいは保守部門の担当者に営業をかけていた。

調達担当者は部品価格や1回当たりのコストを気にする傾向が強く、また保守部門の担当者は「社外のサービスを利用すると、自分たちの仕事がなくなる」と不安を抱く。

 

 顧客企業の社内で、新しいサービスを利用すると総コストがどれくらい高まるのかを把握できるのは生産管理部門であるため、ハイデルベルクは、生産管理マネジャーに売り込みができるよう、営業担当者を教育する必要があった。

 

 これまで製品だけを扱ってきた営業担当者は、ともすると改革に激しく抵抗する。

エア・リキードも、サービス販売に軸足を移した際、このことを痛感した。

 

 営業部門の管理職たちは、既存製品からは十分な利益が上がっており、売上高もさらに伸ばす余地があると主張した。

それに引き換え、サービスは人手も資金も相当必要になるうえ、もし顧客への約束を果たせなければ製品の売れ行きにも響くと言う。

 

 我々の調査によれば、サービス事業をそつなく展開している企業はみな、苦労に苦労を重ねて営業担当者を再訓練している。

 

 シュナイダー・エレクトリックは、営業組織を大幅に改編したほか、サービスの販促に当たっては、従来のコスト・プラス方式ではなく顧客価値に基づいて、すなわち顧客の事業や業務改善にどれくらい貢献するかによってプライシングするように、営業担当者への指導を徹底した。

 

 またその一環として、営業担当者たちが、顧客企業のマネジャーがより的確に意思決定することを支援できるようになるために、取引先の経営者の立場になって考えるトレーニングを実施した。

 

 とはいえ、入念な研修を施しても、やはり人材を入れ替えざるをえない場合もあるだろう。

実際、稀な例ではあるが、某企業では営業担当者の8割を入れ替えた。既存の人材をほぼそのまま活用できる場合でも、少数とはいえ、特殊なスキルや経験の持ち主を新たに迎える必要がある。

 

フランスのフォークリフト・メーカー、フェンウィック・リンデは、3方向フォークリフトのサービス契約を獲得するために、本社と地域販社でその分野の専門家を募集した。

社内で探すなら、サービス・サポート部門がこのような人材の宝庫である。

 

 我々が調べた成功企業では、製品とサービスの営業を何らかのかたちで分けていた。

一例としてGEメディカルサービスは、製品の営業に携わる人々を「狩猟者(ハンター)」と位置づけ、新製品の受注を期待する。

 

 他方、サービスの売り込みを担当する人たちは「農耕者(ファーマー)」と呼ばれ、顧客リレーションシップを深め、サービスを末長く利用してもらうために営業努力する。

 

 ただし、このように営業担当者を棲み分けることには、時に弊害を伴う。

ゼロックスは、ソリューション事業の立ち上げと育成に素晴らしい成果を上げてきた。

そこでは、オフィス機器の提供よりもむしろ、顧客の社内におけるドキュメント管理を支援することに重点を置いている。

 

 とはいえその一方で、プリンターや複写機を販売し、それに合わせてシンプルなサービス契約を獲得するという既存事業も重要視している。

 

 それゆえ、中小企業との取引をめぐって、二つの営業組織が競合することになる。

先にきっかけをつかんだほうが、全社の利益はさておき、受注の一人占めを狙って、積極的に売り込み攻勢をかける。

 

 言うまでもなく、営業担当者たちに、製品販売の場合よりも大きな金銭的インセンティンブを与えない限り、サービス重視の戦略は実を結ばないだろう。

製品の売上高がサービスとは比べ物にならないほど大きい場合は、戦略転換は暗礁に乗り上げやすい。

 

 エア・リキードが、たとえばどこか一社に50万ユーロ相当のガスを供給しても、これに付随するサービス売上げはせいぜい数千ユーロだろう。

製品とサービス、両方の営業活動のベクトルを揃えない限り、組織間、営業担当者間の競争はなくならない。

 

 エア・リキードが、顧客によるシリンダーの無駄づかいを解消するために、在庫管理サービスに乗り出したところ、製品の営業を担当する組織は、これまでの収入源が脅かされると考えて、これに抵抗した。

 

 このため上層部は、新しいサービスを導入することで、顧客のガス在庫は減るかもしれないが、長期にわたって顧客を囲い込むきっかけとなるため、顧客の購買量全体に占める自社の比率は上昇すると説得しなければならなかった。

 

 合わせて、製品とサービス、二つの営業部門が協力し合うために、受注案件ごとに、各営業担当者に同額の手数料を支給する制度を導入した。

 

 なお、サービスを営業するに当たって、顧客にその価値を正しく伝えるためのツールや資料を用意しなければならない。

ツールとしては、導入事例や報告書、シミュレーション・ソフトなどが考えられる。

 

 その好例として、SKFが15年を費やして開発した「ドキュメント・ソリューションズ」を紹介したい。

 

 アメリカ子会社が考案したこのツールは、サービスが顧客のコスト削減にどれだけ寄与するかを検証・説明する強力な武器となっており、世界各地の営業担当者が利用できる。

しかも、データベースとリンクしているため、世界各国での導入例のベスト・プラクティスと比較できるだけでなく、顧客のROIも計算できる。

 

 

5. STEP 4】顧客の業務プロセスを重視する

 

 コスト効率の高い方法で、サービスを売り込み、提供できるようになれば、顧客の課題や業務プロセスに幅広い視点で対応できる準備が整ったといえよう。

ひるがえせば、それはつまり、顧客第一に考えて、社内プロセス、インセンティブ、組織や体制を見直すことにほかならない。

 

 フェンウィック・リンデは、おもしろい方法を関発した。

製品の利用状況という貴重な情報を収集するために、フォークリフトにデータ収集用のセンサーとICタグを設置したのだ。

 

 ここから得られた情報に基づいて、アクセス・コントロールとリモート監視、資産管理、顧客向けイントラネット「フェンウィック・オンライン」などの新サービスを関発し、さらにはフォークリフト操作者の養成学校まで設けた。

現在では、総売上げ5億門の50%を、この15年間で開発したサービスが稼ぎ出している。

 

 製品関連のシンプルなサービスにとどまらず、複雑なソリューションを提供するとなると、プライシングの前提や業績評価指標を見直さなければならない。

 

 製品志向の強いメーカーはえてして、機械の稼働時間や販売数など、インプットに関する指標を重視しがちである。

サービスが製品に付随し、各サービスの関連性が乏しく、業績へのリスクが低い限り、この考え方でまったく問題ない。

 

 この場合、バック・オフィスも現場もサービスを製品の一種類と見なしているため、投入コストが大きな意味を持つ。

ただし、もう一段階上に進むには、顧客の視点に立った問題解決が求められる。

この分野に足を踏み入れると、以前よりはるかに大きなリスクを覚悟しなければならない。

 

 まず、相応のアウトプットを目的とする以上、その達成度に基づいて対価を決めるべきだろう。

我々が調べた成功例はすべて、そのための仕組みを用意していた。

もちろん、プライシングは従来とは比べものにならないほど複雑になる。

 

 たとえばフランスのジェット・エンジン整備会社、スネクマ・サービシズは、一定の飛行時間を保証することを顧客との契約書に明記し、たとえどれだけサービス稼働がかかろうとも、必ず約束を果たす。

 

 リヒテンシュタインに本社を置くヒルティは、建設業界向けに電動工具をリースするに当たり、合わせて「オール・ラウンド・ハッスル・フリー」(手間いらずの包括サービス)というサービスを提供している。

これは、たとえば顧客がドリルを必要としていれば、これを現場まで届け、使用量に応じた料金を請求するというものだ。

 

 顧客の抱える問題を解決するために、どのような価値を提供すべきか、これが具体的に見えてくると、顧客の業務プロセスの一端を肩代わりするにしても、社内にはそのための専門性が欠けているという事実にほどなく気づくだろう。

 

 産業用コーティング事業を展開するPPGインダストリーズは、フィアットのトリノエ場に対して、塗装業務の代行サービスを申し出た。

この新しい契約の下、塗料の納入量ではなく、塗装台数に応じた代金をフィアットから受け取ることになった。

そこでPPGは、仕上げにムラが生じないように、塗装ロボットの仕組みを学ぶ必要に迫られた。

 

 前述のSKFも、主力製品であるベアリングに関連したサービスを企画するに当たり、ベアリングの損傷事例を調べ、損傷を防ぐためのノウハウを培った。

SKFはこの10年間で、自力成長と事業買収を重ねながら、機械類の状態監視、産業用の密封処理(シーリング)、潤滑システム、振動分析などの分野で世界のリーディング・カンパニーへと躍進した。

 

 

 サービスは、優良顧客を囲い込み、スイッチング・コストを高める切り札となりうる。

エア・リキードのマネジャーの一人は、

「私どもが、お客様の事業に関われば関わるほど、お客様は、それがどのように運営されているのか、気にしなくなっていきます」と述べている。

 

 しかも、サービスの提供は、製品事業の可能性を見出すうえでも優れた方法でもある。

フェンウィック・リンデのマネジャーたちは、

「製品の売り込みに苦戦した場合、競合製品向けのサービスを提案します」と明かした。

 

 サービスがきっかけとなって、顧客との関係が芽生えれば、これが将来の取引の糸口となろう。

サービス事業は大きな果実となる可能性を秘めているとはいえ、一朝一タにはいかない。

のための近道を見つけ、利益を押し上げるには、本稿で紹介した4つのステップを踏むとよいだろう。

       (HBR20085月号より)

 

 

--------------【参考コラム】-------------------------------

 

サービス事業がなぜ重要か

 

 メーカーがサービス戦略を推進すべき理由はけっして一つや二つではない。

とりわけ、以下に紹介する三つのトレンドが、法人向けサービス事業にとって追い風となる。

 

(1)アウトソーシングの普及

 

 産業界では近年、資産の効率化が関心の的になっている。

ROA(総資産利益率)を押し上げるために、生産現場の柔軟性を高め、技術力を継続的に向上させ、戦略性の低い業務をアウトソーシングする動きが広がっている。

 

(2)製品市場の飽和

 

 いまや足りない什器備品はほとんどないという状況ゆえ、市場には頭打ち感が広がっている。

一例として、全世界で96億ドルの売上げを誇るオーチスは、150万台もの自社製エレベーター用やエスカレーター用のサービスを提供する一方、2005年の新規販売数はおよそ10万台にとどまった。

このような企業が成長を維持する道は、大規模な企業買収に乗り出すか、サービス事業を拡充するか、どちらかに限られる。

 

(3)製品のコモディティ化

 

 製品価格が下落傾向にあるところへ、コモディティ化か追い撃ちをかけている。

また、新興国のメーカーでも、いまや顧客の要求水準を満たした製品を生産できる。

したがって、競争優位を獲得するには、メーカーはサービスに力を入れざるをえない。

 

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図表 法人向けサービスから利益を創造する

 

 サービスを利益につなげるには、各ステップにおいて具体的な目標を掲げ、以下に紹介するような問題に自問自答する必要がある。

我々の調査によれば、それぞれのステップの目標を確実に達成してから、次のステップに進む必要がある。

 

STEP 1 既存サービスにあらためて目を向ける。

[Key Questions 問い]

●各事業部門や現地法人は、サービスをどのように提供しているか。

●社内のベスト・プラクティスは何か。

●有償化できそうなサービスはどれか。

[Key Goals 目標]

●既存サービスを洗い出す。

●有償化しやすいサービスを見つけて売上原に変える。

●執行役員クラスをサービス事業の育成担当者に任命する。

 

STEP 2 バック・オフィス業務にモノづくりの発想を取り入れる。

[Key Questions 問い]

●持ち出しになるサービス、儲かるサービスはどれか。

●どうすればコストを抑えながら、サービスを提供できるか。

●顧客ニーズに合わせてサービスをカスタマイズする方法は何か。

[Key Goals 目標]

●サービスを提供するプロセスと管理する手法を標準化する。

●顧客の個別事情に対応できるサービス・プラットフォームを構築する。

 

STEP 3 営業担当者にサービス営業の心得を教える。

[Key Questions 問い]

●営業部門に、製品とサービスを売り込める準備は整っているか。

●営業部門は、自社のサービスのメリットを顧客にきちんと説明できるか。

●これまで以上に手間と時間をかける覚悟ができているか

[Key Goals 目標]

●営業部門にサービスを売り込むためのノウハウを身につけさせる、もしくはサービス専門の営業部門を立ち上げる。

●サービスの売上げを増加させる報奨制度を導入する。

●サービスの価値を顧客に伝えるために、資料やツールを作成する。

 

STEP 4 顧客の業務プロセスを重視する。

[Key Questions 問い]

●サービスの中身は、顧客の事業目標や業務プロセスに貢献するものか。

●顧客の抱える問題に幅広い視点から対処できるか。

●どのような専門性を養う必要があるか。

[Key Goals 目標]

●顧客の抱える課題や業務プロセスを詳しく把握する。

●業務内容ではなく成果に着目した業績評価指標を重視する。

●新たなサービス分野で競争するためのケイパビリティを見極める。

 

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